ブレークスルーを生む属性列挙法：企画の対象を属性レベルで分解し、新しいアイデアを量産する実践ガイド
企画の行き詰まりを打破する「属性列挙法」とは
企画業務において、既存のアイデアや製品の延長線上で考えることが多くなり、斬新な発想が生まれにくい、あるいはアイデアが出尽くしたと感じる経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。特に時間的な制約がある中で、効率的に、しかし確実にブレークスルーにつながるアイデアを生み出したいと考える場合、体系的な思考法が有効な助けとなります。
「属性列挙法」は、既存のアイデアや対象物を構成する「属性」に分解し、それぞれの属性を意図的に変化させることで、新しいアイデアを構造的に生み出す実践的な思考法です。ゼロから完全に新しいものを考え出すのが難しい場合でも、既にあるものを起点として発想を広げることができるため、アイデアの枯渇を防ぎ、量産と質的な飛躍の両立を目指すことが可能です。
本記事では、属性列挙法の基本的な考え方から、具体的な実践ステップ、そして実際の企画業務への応用方法までを詳細に解説いたします。この思考法を習得することで、あなたの企画業務におけるアイデア創出がより効率的かつ創造的になることを目指します。
属性列挙法の基本的な考え方とその有効性
属性列挙法は、対象物やアイデアが持つ様々な特徴、すなわち「属性」に着目することから始まります。例えば、一つの製品であれば、その「形」「色」「素材」「機能」「価格」「ターゲット顧客」「販売場所」などが属性として挙げられます。
この思考法の核となるのは、列挙した個々の属性を独立して考え、それぞれを「変化させる」「置き換える」「加えてみる」「取り除いてみる」といった操作を加えることです。属性を分解し、一つずつ異なる視点から捉え直すことで、既存の枠を超えた発想が生まれるきっかけを作り出します。
属性列挙法が有効である理由はいくつかあります。第一に、既にあるものを分解するため、発想の起点が見つけやすい点です。白紙の状態から考えるよりも、具体的な対象を分析することから始める方が、思考のハードルは低くなります。第二に、属性ごとに検討を進めるため、思考のプロセスが構造化され、網羅的にアイデアを探求できる点です。特定の属性に焦点を当てることで、普段は見落としがちな側面に気づくことができます。第三に、属性の変化と組み合わせによってアイデアを生み出すため、一見無関係に見える要素から斬新な結合が生まれる可能性があります。
この方法は、製品改善、サービス開発、業務プロセスの見直し、新規事業アイデアの創出など、幅広い企画領域に応用可能です。
属性列挙法の実践ステップ
属性列挙法を効果的に実践するための具体的なステップは以下の通りです。
ステップ1：アイデア創出の「対象」を明確にする
まず、アイデアを生み出したい対象、つまりテーマを明確に設定します。これは既存の製品やサービス、解決したい課題、改善したい業務プロセスなど、具体的であるほど属性を抽出しやすくなります。
例：既存の「ビジネス向けオンラインセミナーサービス」を改善・発展させるアイデアを考える。
ステップ2：対象の「属性」を洗い出す
設定した対象が持つ属性を、思いつく限りリストアップします。この際、物理的な特徴だけでなく、機能、用途、顧客層、提供方法、コスト構造、感情的な価値など、多角的な側面から属性を洗い出すことが重要です。カテゴリー分けを意識すると、抜け漏れを防ぎやすくなります。
例：「ビジネス向けオンラインセミナーサービス」の属性例 * 形式: ライブ配信、オンデマンド配信 * 内容: 特定の専門分野、汎用的なビジネススキル、トレンド情報 * 講師: 社内専門家、外部コンサルタント、著名人 * 参加者: 新入社員向け、中堅社員向け、管理職向け、特定業界向け * 料金体系: 無料、都度払い、サブスクリプション、法人契約 * 技術: 使用プラットフォーム、インタラクティブ機能（チャット、質疑応答）、録画機能 * 目的: スキル向上、情報収集、ネットワーキング、意識変革 * 時間: 平日日中、夜間、週末、短時間、長時間 * フォローアップ: 資料配布、録画視聴、個別質問対応、コミュニティ
ステップ3：各属性に「変化」や「操作」を加える
リストアップした属性それぞれに対して、「もし〇〇を変えたらどうなるか？」「△△を加えてみたら？」「◇◇を取り除いたら？」といった問いを立て、意図的な変化や操作を加えてみます。ここでは、現実的か非現実的かは一旦考慮せず、自由な発想で可能性を探ることが大切です。ブレークスルーの種は、一見突飛なアイデアの中に隠されていることがあります。
属性に変化を加える際の思考を助けるための切り口としては、SCAMPER法の要素（Substitute:置き換え、Combine:組み合わせ、Adapt:適応、Modify:修正/拡大/縮小、Put to another use:他の用途、Eliminate:削除、Reverse:逆転）などが参考になりますが、属性列挙法ではよりシンプルに「この属性を変える」という視点に焦点を当てます。
例：先のオンラインセミナーサービスの属性に変化を加える思考 * 形式: ライブ配信 のみ → ライブ配信とメタバース空間での交流を組み合わせる * 内容: 特定の専門分野 → 特定の専門分野と異分野（アート、哲学など）を組み合わせた内容 * 講師: 社内専門家 → 参加者自身が講師になる * 参加者: 中堅社員向け → 親子で参加できるビジネススキルセミナー * 料金体系: サブスクリプション → 成果報酬型料金 * 技術: チャット機能 → AIによるリアルタイム感情分析＆フィードバック機能 * 時間: 平日日中 → 通勤時間中に特化した音声のみセミナー
ステップ4：変化させた属性を「組み合わせ」て新しいアイデアを生み出す
ステップ3で各属性に加えた変化の中から興味深いものや可能性を感じるものを複数選び、それらを自由に組み合わせることで、具体的な新しいアイデアの形を探ります。単一の属性変化だけでは小さな改善にしかならないアイデアも、複数の属性の変化を組み合わせることで、全く新しいサービスや製品コンセプトに発展することがあります。
例：変化させた属性の組み合わせ * 「ライブ配信とメタバース空間での交流」 + 「参加者自身が講師になる」 + 「成果報酬型料金」 → アイデア案：「参加者が持ち寄ったテーマについてメタバース空間でディスカッションし、最も学びの大きかったセッションに参加者が後払いする、自律型学びコミュニティサービス」 * 「特定の専門分野と異分野を組み合わせた内容」 + 「親子で参加できる」 + 「通勤時間中に特化した音声のみセミナー」 → アイデア案：「通勤中に親子で聞ける、ビジネスとアートを掛け合わせたテーマの音声セミナーシリーズ」
ステップ5：生まれたアイデアを評価・洗練する
ステップ4で生まれた複数のアイデア案を、当初設定したテーマや目的に照らして評価します。ターゲット顧客のニーズに応えているか、技術的な実現可能性はあるか、ビジネスとして成立しうるか、といった観点から検討し、有望なアイデアを絞り込み、さらに具体的に洗練させていきます。この段階で、必要に応じて別の思考法（デザイン思考のプロトタイピングなど）と組み合わせることも有効です。
実践におけるヒントと注意点
属性列挙法をスムーズに進めるためには、いくつかのヒントがあります。
- 属性のリストアップは徹底的に: 最初は網羅性を意識し、可能な限り多くの属性を洗い出すことが、後のステップで多様なアイデアを生む基盤となります。
- 変化の発想に制限を設けない: ステップ3では、現実的可能性を一旦忘れ、非現実的、極端、面白いと思えるような変化も遠慮なく書き出してみることが重要です。
- 組み合わせの意外性を楽しむ: ステップ4では、一見関連性のない属性の変化を組み合わせてみることで、予想もしなかったブレークスルーアイデアが生まれることがあります。固定観念にとらわれず、様々な組み合わせを試してください。
- 時間制約がある場合: 対象を絞り込む、あるいは属性のカテゴリーを限定するなど、思考範囲を調整することで、短時間でも効果的にアイデア創出に取り組むことが可能です。
- ツールを活用する: 付箋やホワイトボード、デジタルツール（マインドマップツール、表計算ソフトなど）を活用することで、属性の整理やアイデアの可視化が容易になります。
まとめ：属性列挙法で企画のアイデアを構造的に生み出す
属性列挙法は、既存の対象を属性という構成要素に分解し、一つ一つに変化を加えることで、新しいアイデアを体系的かつ効率的に生み出す強力な思考法です。企画のアイデアに行き詰まりを感じている場合や、限られた時間の中でアイデアを量産し質を高めたい場合に特に有効です。
この思考法は、特別な道具や高度な知識を必要としません。身の回りにある製品やサービス、あるいは自身の企画テーマを対象に、まずは属性をリストアップすることから始めてみてください。そして、それぞれの属性に「変化」という魔法をかけてみましょう。属性の意外な組み合わせから、きっとブレークスルーにつながる斬新なアイデアが生まれるはずです。
属性列挙法を日々の企画業務に取り入れることで、アイデア創出のプロセスが構造化され、より多くの可能性を探求できるようになります。ぜひこの実践ガイドを参考に、あなたのアイデア創出力を高めてください。