ブレークスルーを生むマンダラート:アイデアを網羅し、発想を構造化する実践ガイド
企画業務において、アイデアの枯渇や偏りは多くの担当者が直面する課題です。いつもの発想パターンから抜け出せず、斬新なアイデアが生まれにくいと感じることもあるかもしれません。また、多忙な日々の中で、効率的にアイデアを整理し、具体的な形にしていく方法を求めている方も多いでしょう。
このような課題に対し、「マンダラート」という思考ツールがブレークスルーのきっかけを提供することがあります。マンダラートは、アイデアを多角的かつ構造的に整理・展開するためのフレームワークであり、個人の発想力向上だけでなく、チームでのアイデア出しや問題解決にも有効です。
この記事では、マンダラートの基本から、ブレークスルーを生むための具体的な実践ステップ、そして企画業務における応用例までを詳しく解説します。
マンダラートとは
マンダラートは、中心に主要テーマを置き、その周囲に放射状に関連キーワードを展開していくマス目状のフレームワークです。通常、3x3のマス目を基本単位とし、中心のマス目に最も重要なテーマや目標を設定します。そして、その周囲の8つのマス目に、中心テーマから連想されるキーワードや要素を書き出します。
さらに、この3x3のマス目全体を、より大きな9x9のマス目の中央に配置します。外側の8つの3x3のマス目には、中央のマス目で周囲に展開した8つのキーワードそれぞれを中心テーマとして設定し、同様にその周囲に8つの関連キーワードを書き込んでいきます。最終的に、9x9のマス目全体で81個のマスが埋まる構造となります。
この構造は、仏教の曼荼羅に似ていることから「マンダラート」と名付けられました。野球界で目標達成シートとして活用され、注目を集めたことでも知られています。
なぜマンダラートがブレークスルーにつながるのか
マンダラートが企画のブレークスルーに貢献する理由はいくつかあります。
第一に、アイデアの網羅性を高める点です。中心テーマから連想されるキーワードを強制的に8つ、さらにそれぞれのキーワードから8つずつ展開することで、普段意識しないような視点や、見落としがちな関連要素を引き出すことができます。これにより、偏りのない、幅広いアイデアの種を発見しやすくなります。
第二に、発想を構造化し、深掘りできる点です。単にアイデアをリストアップするのではなく、中心テーマとの関連性や、要素間の繋がりを意識しながらマス目を埋めていきます。これにより、アイデアが単発で終わらず、テーマに沿った具体的な要素へと分解・展開され、全体像を把握しやすくなります。この構造化のプロセスを通じて、アイデアの実現可能性や必要な要素が見えてくることもあります。
第三に、思考の「型」を提供する点です。アイデア出しに行き詰まる原因の一つに、「どう考えたら良いか分からない」ということがあります。マンダラートは明確なフレームワークを提供するため、思考のスタート地点や展開の方向性が定まりやすく、迷わず発想を進めることができます。特に時間的制約がある中で、効率的にアイデアを形にする助けとなります。
マンダラートを使ったブレークスルー実践ステップ
ここでは、マンダラートを企画やアイデア創出に活用するための具体的なステップを解説します。
ステップ1:中心テーマを設定する
まずは、最も考えたいテーマや解決したい課題を明確にし、9x9のマス目の中央にある3x3のマスの中央に書き込みます。これは、新しい事業アイデア、既存サービスの改善点、特定のターゲット顧客へのアプローチ方法など、具体的なものであるほど、以降の展開がスムーズに進みます。
例:「30代向け新規フィットネスサービス」
ステップ2:周囲の8つのキーワードを展開する
設定した中心テーマから連想される、主要な要素や視点を周囲の8つのマスに書き出します。これらは、テーマを構成する要素、成功のための条件、関連するターゲット、解決すべき課題など、様々な切り口で考えることができます。完璧である必要はなく、思いつくままに広げてみましょう。
例(中心テーマ:「30代向け新規フィットネスサービス」) - ターゲットの詳細 - サービスのコンセプト - 提供価値・メリット - ビジネスモデル - 集客・プロモーション - 運営体制 - 必要な技術・設備 - 競合との差別化
ステップ3:外側のマス目でアイデアを深掘り・展開する
中央の3x3のマス全体を、9x9のマス目の中央に配置したと見立てます。そして、ステップ2で中心テーマの周囲に書き出した8つのキーワードそれぞれを、外側の8つの3x3マスの中央テーマとして設定します。
次に、それぞれのテーマについて、さらに連想される8つの具体的なアイデアや要素を周囲のマスに書き込んでいきます。これにより、アイデアが階層的に深掘りされ、具体的な要素へと分解されていきます。
例(「ターゲットの詳細」を外側3x3の中央に設定した場合) - 居住エリア(都心、郊外など) - ライフスタイル(仕事、育児、趣味など) - フィットネス経験の有無 - 運動にかけられる時間 - 予算感 - 利用する媒体(SNS、アプリなど) - 健康上の悩み - サービスの利用目的
このように、ステップ2で出したキーワードを基に、さらに8つずつ具体的な要素やアイデアを展開していきます。これを8つのテーマ全てに対して行います。
ステップ4:全体を俯瞰し、アイデアを組み合わせる
81マスが埋まったら、全体を俯瞰して眺めます。それぞれのマスに書き込まれたアイデアや要素を関連付けたり、組み合わせたりすることで、新しい発想が生まれることがあります。特に、普段意識しないような離れた位置にあるマス同士を結びつけてみると思わぬ発見があるかもしれません。
例えば、「サービスのコンセプト」のマスで出たアイデアと、「集客・プロモーション」のマスで出たアイデアを組み合わせることで、具体的なプロモーション戦略が見えてくるなどです。
ステップ5:アイデアを評価し、次へ繋げる
マンダラートで出たアイデアや要素を基に、実現可能性、ターゲットへの響きやすさ、差別化の可能性などを基準に評価を行います。有望なアイデアをいくつか選び出し、企画書作成やプロトタイプ開発など、次のステップに進めていきます。マンダラートはアイデア出しの初期段階だけでなく、その後の企画具体化フェーズでも、足りない要素の発見や検討事項の整理に役立てることができます。
企画業務におけるマンダラートの応用事例
マンダラートは、新規事業開発だけでなく、既存サービスの改善、マーケティング戦略の立案、問題解決など、様々な企画シーンで応用できます。
- 新規事業アイデア創出: 新しい市場ニーズや技術シーズを中心に置き、関連するターゲット、ビジネスモデル、必要なリソースなどを多角的に展開することで、事業アイデアの全体像を素早く把握できます。
- 既存サービス改善: 既存サービスの問題点や顧客からのフィードバックを中心テーマに設定し、原因の分析、改善策、必要な機能、影響範囲などを展開することで、体系的な改善プランを検討できます。
- マーケティング戦略立案: 特定の顧客セグメントを中心に置き、彼らのニーズ、情報収集方法、購買決定プロセス、有効なチャネル、メッセージングなどを展開することで、効果的なマーケティング戦略を構築できます。
- 個人のスキルアップ: 自分の目標や習得したいスキルを中心テーマに設定し、必要な要素(知識、技術、経験、人脈など)を展開することで、具体的な学習計画や行動計画を立てることができます。
マンダラート活用のコツと注意点
- 完璧主義にならない: 最初から全てのマスを完璧な言葉で埋めようとせず、思いつくままに気軽に書き出すことが重要です。後から修正や追記は可能です。
- 複数の視点を持つ: マスを埋める際には、一つの視点に固執せず、「もし顧客だったら」「もし競合だったら」「もし技術者だったら」など、複数の視点を取り入れることで、より多様なアイデアが生まれます。
- 具体的な言葉で書く: 抽象的な言葉だけでなく、できるだけ具体的で行動に繋がるような言葉で書きましょう。
- ツールを活用する: 紙とペンでも十分可能ですが、専用のアプリやウェブツールを利用すると、修正や共有が容易になります。
- チームで取り組む: 複数人でマンダラートを作成することで、多様な意見や知識が集まり、一人では思いつかないようなアイデアが生まれる可能性が高まります。
まとめ
マンダラートは、アイデアの網羅性を高め、発想を構造的に整理・深掘りするための強力な思考ツールです。企画に行き詰まりを感じている時、より広範で具体的なアイデアが必要な時に、このフレームワークを活用することで、ブレークスルーの糸口を掴むことができるでしょう。
まずは、抱えている課題や考えたいテーマを一つ選び、実際にマンダラートを作成してみることをお勧めします。思考を「見える化」し、構造的に捉えることで、これまで気づかなかった可能性や、具体的な行動へのステップが見えてくるはずです。マンダラートを日々の思考トレーニングに取り入れ、ブレークスルーを生む発想力を磨いていきましょう。