企画のマンネリ打破!SCAMPER法で枯渇しないアイデアを生み出す実践ガイド
企画職として、常に新しいアイデアを生み出すことは重要な使命です。しかし、時には発想に行き詰まり、既存の延長線上のアイデアしか出てこない、いわゆる「マンネリ」状態に陥ることもあるかもしれません。特に時間的な制約がある中で、ゼロから革新的なアイデアを生み出すのは容易ではないと感じる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、アイデアは必ずしもゼロから生まれる必要はありません。既存の製品、サービス、プロセス、あるいは過去のアイデアを異なる視点から見つめ直し、変化を加えることで、全く新しい、あるいは劇的に改善された発想が生まれることがあります。
本記事では、既存のアイデアを起点としてブレークスルーを生むための強力な思考フレームワークである「SCAMPER法」に焦点を当て、その概念から具体的な実践方法、そしてあなたの企画業務への応用方法までを詳しく解説します。SCAMPER法は、決められた視点から思考を進めるため、短時間でも効果的に多くのアイデア発想のトリガーを得られる可能性があります。この実践ガイドを通じて、アイデアのマンネリを打破し、枯渇しない発想を生み出すヒントを得ていただければ幸いです。
SCAMPER法とは何か
SCAMPER法は、既存のアイデアや製品、サービスなどを、7つの異なる視点から見つめ直し、新しい発想を生み出すための創造性開発ツールです。アメリカの教育学者であるボブ・エバール氏によって提唱され、アレックス・F・オズボーン氏のブレインストーミング原則に基づいています。
SCAMPERは、以下の7つの英単語の頭文字を取ったものです。
- Substitute (置換)
- Combine (結合)
- Adapt (応用)
- Modify, Magnify, Minify (修正、拡大、縮小)
- Put to another Use (別の用途)
- Eliminate (削除、排除)
- Reverse, Rearrange (並べ替え、反転)
これらの視点それぞれが、既存の対象に対して「もし〜したらどうなるか?」「〜を変えてみたら?」といった具体的な問いを立てるトリガーとなります。この問いに答える形で思考を展開していくことで、一人では思いつかなかった多様なアイデアが生まれる可能性が高まります。
なぜSCAMPER法がアイデア創出に有効なのか
SCAMPER法が企画におけるアイデア創出に有効である理由はいくつかあります。
- 思考の出発点を提供: ゼロベースでアイデアを考えるのは難しい場合があります。SCAMPER法は既存の何かを起点とするため、思考を始めるハードルが低くなります。
- 網羅的な視点: SからRまでの7つの視点は、アイデアを多角的に検討するためのフレームワークを提供します。これにより、特定の考え方に固執することなく、幅広い可能性を探ることができます。
- 思考の強制的な転換: 普段考えないような「削除する」「逆さまにする」といった視点が、強制的に思考の枠を外し、斬新なアイデアにつながることがあります。
- 実践しやすさ: 比較的シンプルなフレームワークであり、特別な道具や環境を必要としません。個人でも、チームでのブレインストーミングでも手軽に導入できます。
- 短時間での発想: 各項目に対して次々に問いを立てていくことで、短時間で多くの発想の種を量産しやすい構造になっています。これは時間的制約がある状況でも役立ちます。
これらの特性から、SCAMPER法はアイデアのマンネリ化を打破し、停滞した状況を打開するための有効な手段となり得ます。
SCAMPER法の実践ステップ
SCAMPER法を実際にアイデア創出に活用するための基本的なステップをご紹介します。
ステップ1:対象を明確にする
最初に、アイデアを出したい「対象」を明確に設定します。これは、新しい企画のテーマ、既存の製品やサービス、社内の業務プロセス、解決したい特定の課題など、何でも構いません。一つの対象に絞ることで、その後の思考がブレにくくなります。
例:「既存のコーヒーメーカー」の改善アイデアを考える場合
ステップ2:SCAMPERの各項目に沿って問いを立て、アイデアを発想する
設定した対象に対し、SCAMPERの各項目の視点から問いを立て、思いつくままにアイデアを発想していきます。この段階では、アイデアの質を評価するのではなく、可能な限り多くのアイデアを出すことを意識します。批判をせず、自由な発想を促しましょう。
以下に、各項目ごとの具体的な問いかけの例を示します。これらの問いはあくまで例であり、対象に合わせて自由に問いをアレンジすることが重要です。
- S (Substitute: 置換)
- この対象の代わりに使える素材や部品は?
- この対象の利用者を別のターゲット層に置き換えたら?
- この対象を使う場所や時間を変えたら?
- この対象の提供方法を別の方法に置き換えたら?
- C (Combine: 結合)
- この対象と他の何かを組み合わせたら?(機能、製品、サービスなど)
- 複数の目的を一つの対象で同時に達成するには?
- 異分野のアイデアや技術をこの対象に結合したら?
- 他の企業や組織と連携したら?
- A (Adapt: 応用)
- この対象に似たものは、他の分野や業界にないか?それを応用できる?
- 過去の成功事例や失敗事例から何を応用できる?
- 自然界の仕組みや生き物から何を学んで応用できる?
- 別の状況や問題にこの対象を応用したら?
- M (Modify, Magnify, Minify: 修正、拡大、縮小)
- この対象のデザインや形、色などを修正したら?
- 何かを大きくしたり、増やしたりしたら?(サイズ、量、頻度など)
- 何かを小さくしたり、減らしたりしたら?(サイズ、機能、コストなど)
- 機能を強化したり、弱めたりしたら?
- 見た目や感覚(音、香り、手触りなど)を変えたら?
- P (Put to another Use: 別の用途)
- この対象を現在の主な用途以外に使う方法は?
- 別の顧客層や市場で使えるか?
- 使われなくなった部品や機能を別の用途に転用できないか?
- 子供向けを大人向けに、ビジネス向けを家庭向けに、のように変えたら?
- E (Eliminate: 削除、排除)
- この対象から何かを取り除いたり、省略したりしたら?(部品、機能、手順、コストなど)
- シンプルに、より効率的にするには何をなくせる?
- 不要な要素は?
- もし〇〇がなかったらどうなる?
- R (Reverse, Rearrange: 並べ替え、反転)
- この対象の順序や手順を並べ替えたり、逆さまにしたら?
- 役割や機能を反転させたら?(例:ユーザーが提供者になる)
- 物理的に上下、前後、内外を反転させたら?
- ネガティブな側面をポジティブに変えるには?
- 期待されていることの逆をしたら?
これらの問いに対して、ポストイットに書き出す、ホワイトボードにリストアップするなど、可視化しながらアイデアを出していくと効果的です。各項目で時間を区切る(例:各項目5分)と、短時間で多くのアイデアを出すのに役立ちます。
ステップ3:出てきたアイデアを評価・選別する
ステップ2で洗い出した多くのアイデアの中から、有望なものを選び出します。実現可能性、市場性、顧客価値、自社のリソースなどを考慮して評価します。全てのアイデアが実用的である必要はありませんが、いくつかの視点から絞り込みを行います。
ステップ4:有望なアイデアを深掘りし、具体化する
選ばれたアイデアについて、詳細を検討し、具体的な企画へと落とし込んでいきます。「それはどのように機能するのか?」「どのような顧客に価値を提供するのか?」「実現するためには何が必要か?」といった問いに答えながら、アイデアを磨き上げていきます。必要であれば、再度SCAMPER法を使ったり、他の思考法(例:KJ法、ビジネスモデルキャンバスなど)と組み合わせたりしてアイデアを深化させます。
SCAMPER法の応用事例とあなたの業務への活かし方
SCAMPER法は様々な分野で応用されています。有名な例として、かつてソニーが開発したWalkmanは、既存のテープレコーダーから録音機能を「Eliminate(削除)」し、再生機能に特化することで生まれたと言われています。Post-itは、本来の目的(強力な接着剤)としては失敗作だった接着剤を「Put to another Use(別の用途)」として活用した例です。スマートフォンは、電話、インターネット、カメラ、音楽プレーヤーなど様々な機能を「Combine(結合)」し、ユーザーインターフェースを「Modify(修正)」した代表例と言えるでしょう。
あなたの企画業務においても、SCAMPER法は多岐にわたる形で活用できます。
- 新製品・サービス開発: 既存の製品や競合製品を対象にSCAMPER法の問いを投げかけ、「ここにあの機能を組み合わせたら?」「この部分をなくしたらもっとシンプルになる?」「別の顧客層に使ってもらうにはどう変える?」といった発想から新しいコンセプトを生み出せます。
- 既存製品・サービスの改善: 自社の既存製品やサービスの課題点や改善点を見つける際に、「このプロセスを並べ替えたらもっと効率的になる?」「この機能の一部を削除したらコストを抑えられる?」「他の業界のサービスの良い点を応用できないか?」と考えます。
- 業務プロセスの効率化: 定型的な業務プロセスを対象にSCAMPER法を適用し、「この手順とあの手順を結合できないか?」「この作業を自動化(Substitute)できないか?」「このステップを削除したら?」といった視点から改善策を見出します。
- マーケティング戦略: ターゲット顧客、プロモーション方法、販売チャネルなどを対象に、「別の媒体に応用したら?」「競合の戦略を逆さまにしたら?」「顧客とのコミュニケーション方法を修正したら?」といった問いから新しいアプローチを発想します。
時間がない場合でも、まずは一つの項目(例えばSとCだけ)に絞って短時間で試してみる、あるいは特定の製品やサービスの一部分だけを対象にするなど、スモールスタートで始めることも可能です。
実践上の注意点と成功のためのヒント
SCAMPER法をより効果的に実践するための注意点やヒントをいくつかご紹介します。
- 対象を明確にする: 何についてアイデアを出すのかが曖昧だと、発想が拡散してしまいます。具体的な製品名、サービス名、特定の課題などを設定しましょう。
- 問いかけを具体的に: 抽象的な問いではなく、「〇〇の代わりに△△を使ったら?」「△△と✕✕を組み合わせたら?」のように、具体的な要素を問いに含めるとアイデアが出やすくなります。
- 質より量を優先: 特に発想段階では、出てきたアイデアの実現性や質を評価せず、とにかく多くのアイデアをリストアップすることに集中しましょう。奇抜に思えるアイデアにも、後で役立つヒントが含まれていることがあります。
- 時間を区切る: 各SCAMPER項目の発想に時間を区切って取り組むことで、だらけることなく集中でき、短時間で効率的にアイデアを出すことができます。
- 可視化と記録: 出てきたアイデアは、書き出すなどして必ず記録に残しましょう。後で見返したり、他のアイデアと組み合わせたりする際に役立ちます。
- 他の思考法との組み合わせ: SCAMPER法はあくまで発想を促すためのフレームワークです。出てきたアイデアを深掘りしたり、実現性を検証したりする際には、別の分析ツールや思考法と組み合わせて使用すると効果的です。
まとめ
本記事では、企画のマンネリ打破とアイデア枯渇を防ぐための実践的な思考法として、SCAMPER法をご紹介しました。
SCAMPER法は、
- 既存のアイデアや対象を起点にできる
- S・C・A・M・P・E・Rの7つの視点から網羅的に発想できる
- 具体的な問いを通じて思考を強制的に転換できる
- 個人でもチームでも、短時間から実践可能である
といった特長を持ち、アイデア発想に行き詰まった状況を打開するための強力なツールとなります。
対象を明確に設定し、7つの視点から積極的に問いを立て、質より量を意識してアイデアを出し、最後に有望なアイデアを選別・具体化するというステップを踏むことで、あなたの企画業務に新しい風を吹き込むことができるでしょう。
ブレークスルーは、ゼロから突然生まれる魔法のようなものではありません。既存のものを異なる視点から見つめ直し、小さな変化を積み重ねることから生まれることも多くあります。SCAMPER法を日々の思考トレーニングとして取り入れることで、アイデアを「生み出す」だけでなく、「変化させる」「組み合わせる」「別の角度から見る」といった柔軟な発想力を養い、企画におけるマンネリを打破し、常に新鮮で実践的なアイデアを生み出し続けることが可能になるはずです。ぜひ、今日の業務からSCAMPER法の問いかけを始めてみてください。