発想逆転メソッド

企画の行き詰まりを打破:システム思考で問題の構造を見抜き、ブレークスルーを生む方法

Tags: システム思考, 企画, ブレークスルー, 問題解決, アイデア創出, 氷山モデル

企画職として日々の業務に取り組む中で、単なる部分的な改善や既存のアイデアの組み合わせでは解決できない、構造的で複雑な問題に直面することは少なくありません。特に新規事業開発や既存事業の抜本的な改革においては、表面的な事象に囚われず、問題の根源や関係性を深く理解することがブレークスルーを生む鍵となります。

このような状況で有効な思考法の一つが「システム思考」です。システム思考は、物事を単なる要素の寄せ集めとしてではなく、相互に関連し影響しあう「システム」として捉え、その全体像と構造を理解することで、問題の根本原因を見つけ出し、予想外の解決策や新たなアイデアを生み出すアプローチです。

システム思考とは何か

システム思考は、複雑な状況や問題を理解するための考え方です。個々の要素や出来事だけを見るのではなく、それらがどのように結びつき、時間とともにどのように変化するか、そしてどのような構造が生み出されているかに注目します。

一般的な線形思考(原因Aがあれば結果Bが生じる、という単純な因果関係で物事を捉える考え方)に対し、システム思考では、要素間の相互作用によって生まれる「フィードバックループ」や、システム全体の振る舞いを支配する「構造」に焦点を当てます。これにより、表面的な出来事の背後にあるパターンや、問題がなぜ継続するのか、あるいはなぜ特定の効果が出にくいのかといった根本的な理由を理解することが可能になります。

企画の行き詰まりも、多くの場合、個別のアイデアや施策の問題ではなく、市場、顧客、競合、自社組織、技術といった様々な要素が複雑に絡み合ったシステムの構造に起因しています。システム思考を導入することで、この複雑な構造を紐解き、どこに働きかければシステム全体の動きが良い方向へ変化するか(レバレッジポイント)を見出すことができるのです。

ブレークスルーを生むシステム思考の実践ステップ

システム思考は抽象的な概念に聞こえるかもしれませんが、具体的なフレームワークやツールを用いることで、企画の実践に役立てることができます。ここでは、特に問題の深層を探り、根本的な解決策やアイデアを見つけるために有用な「氷山モデル」を中心とした実践ステップをご紹介します。

ステップ1:表面的な出来事を捉える(氷山モデルの「出来事」レベル)

まず、現在起きている具体的な問題や課題、つまり「出来事」を明確に記述します。「新規事業アイデアが出ない」「特定の顧客層からの反応が薄い」「会議での議論が深まらない」といった、観察できる具体的な事象です。これは氷山の水面上に見えている部分に相当します。

ステップ2:出来事の背後にあるパターンを認識する(氷山モデルの「パターン」レベル)

次に、観察された出来事が、一時的なものではなく、繰り返し現れる傾向やパターンであるかどうかを考えます。「毎月のように同じ種類の顧客からの問い合わせが増えている」「特定のタイプのアイデアがいつも却下される傾向がある」「議論が平行線になる会議が多い」など、時系列で見たときに共通する動きや傾向を探ります。これは、出来事の発生頻度やタイミング、強さといったパターンを捉えることにあたります。水面下の少し深い部分です。

ステップ3:パターンを生み出す構造を特定する(氷山モデルの「構造」レベル)

最も重要なステップの一つが、観察されたパターンを生み出しているシステムの「構造」を特定することです。ここでいう構造とは、組織のルール、プロセスの流れ、情報の伝達経路、物理的な配置、そして要素間の相互作用(フィードバックループ)など、システムを構成する要素間の目に見えない関係性や仕組み全般を指します。

「なぜ、特定の顧客層からの問い合わせが増え続けるパターンが起きるのか?」(例:問い合わせ窓口の設計、情報提供の方法、顧客対応プロセスの問題か?それとも製品・サービス自体の特性か?) 「なぜ、特定のアイデアがいつも却下されるパターンが起きるのか?」(例:評価基準の曖昧さ、意思決定プロセスの偏り、特定の部門間の力関係か?) 「なぜ、議論が平行線になるパターンが起きるのか?」(例:事前の情報共有不足、議論の進行方法、参加者の役割、組織内の対立構造か?)

このように、「なぜそのパターンが繰り返されるのか?」という問いを深掘りし、要素間の繋がりやフィードバックループを図示するなどして可視化を試みます。この構造レベルこそが、問題が持続するメカニズムを解き明かす鍵であり、氷山のかなり深い部分に相当します。

ステップ4:構造を支えるメンタルモデルを探る(氷山モデルの「メンタルモデル」レベル)

さらに深く掘り下げ、その構造を維持・強化している人々の「メンタルモデル」を探ります。メンタルモデルとは、人々が無意識のうちに持っている信念、価値観、仮説、前提知識など、世界の捉え方や判断基準を形成する思考の枠組みのことです。

「なぜ、そのような問い合わせ対応プロセスになっているのか?」(例:「お客様は自分で調べるのが苦手だ」「問い合わせを増やすことは会社の評価につながる」といった担当者の無意識の前提があるか?) 「なぜ、特定のアイデア評価基準が採用され続けているのか?」(例:「新しいアイデアはリスクが高い」「過去の成功パターンこそが正解だ」といったリーダー層の信念があるか?) 「なぜ、特定の組織構造や情報伝達経路になっているのか?」(例:「情報は特定の部門で管理すべきだ」「会議は意思決定の場ではなく報告の場だ」といった組織文化や個人の価値観があるか?)

メンタルモデルは氷山の最も深い部分であり、普段は意識されにくいものです。しかし、このメンタルモデルこそが、その上の構造、パターン、出来事を生み出す根源となっていることが多いのです。ここに働きかけることができれば、システム全体を大きく変革するブレークスルーにつながる可能性があります。

ステップ5:レバレッジポイントに基づいたアイデア創出と実践

氷山モデルを用いて問題の構造やメンタルモデルを理解できたら、次に「レバレッジポイント」、つまりシステム全体に小さな働きかけで大きな変化をもたらすことのできる箇所を見つけ出します。これは必ずしも表面的な問題点や目立つ場所にあるとは限りません。多くの場合、構造やメンタルモデルといった深いレベルに存在します。

見出したレバレッジポイントに対し、「どのような介入が可能か?」「どのような新しいアイデアや施策が有効か?」を検討します。例えば、特定のメンタルモデルが問題の根源にあると特定できたなら、そのメンタルモデル自体に気づきを与えたり、異なる視点を提示したりするようなコミュニケーションやワークショップを企画することがアイデアとなるかもしれません。あるいは、情報の流れをせき止めている構造があるなら、その構造を変える新しい情報共有プラットフォームの導入や、部門横断的な会議体の設置といったアイデアが生まれるでしょう。

システム思考によるアイデア創出は、表面的な出来事への対症療法ではなく、システムの根本的な構造や前提に働きかけるものであるため、より持続的で大きなインパクトを持つブレークスルーにつながる可能性を秘めています。

システム思考を企画に応用するヒント

まとめ

企画の行き詰まりや複雑な問題は、しばしば個別の要素の問題ではなく、システム全体の構造やそれを支えるメンタルモデルに根差しています。システム思考は、これらの深いレベルに光を当てることで、単なる対症療法ではない、根本的な解決策やブレークスルーを生むための強力な思考法です。

特に氷山モデルのようなフレームワークを用いることで、表面的な出来事から始まり、パターン、構造、そしてメンタルモデルへと段階的に深掘りしていく実践が可能となります。このプロセスを通じて、問題の真のレバレッジポイントを見つけ出し、そこに働きかける新しいアイデアを生み出すことができるでしょう。

システム思考は一朝一夕に身につくものではありませんが、日々の業務や身の回りの出来事を「システム」として捉え、「なぜそのパターンが生まれるのか?」「それを生み出す構造は何か?」「その構造を維持する前提や信念は何か?」と問い続けることからトレーニングを始めることができます。ぜひ、複雑な課題に立ち向かう際の思考の武器として、システム思考を取り入れてみてください。